発達障害のある子の「行動問題」解決ケーススタディ―やさしく学べる応用行動分析
編著:小笠原 恵
中央法規
第1章 人が行う行動の理由を探る
事例:妹の髪の毛を引っ張ってしまうかんちゃん
第2章 生活を豊かにするアプローチ
第1節 上手なきっかけのつくり方
事例:友だちを叩いてしまうかずくん
事例:状況にかまわず、ゲームのセリフを言ってしまうひろくん
第2節 行動の理由に適合した対応方法
事例:体操の時間中友だちの足を引っ掛けたり、床に寝そべってしまうりょうくん
事例:自傷・他害行動のあるゆうちゃん
事例:職員に汚言を言ってしまうのりさん
第3節 行動問題を起こさない環境のつくり方
事例:教室の電気を消してしまうゆまちゃん
事例:携帯電話にこだわりをもつこゆちゃん
第4節 自分の行動のマネジメント
事例:授業中の空書や手をヒラヒラさせる行動が目立つのりくん
事例:一方的におしゃべりをするまさくん
事例:無断外出をしてしまうしげるさん
第5節 子どもをやる気にさせる手立て
事例:ワークシステムの順番が守れないこうちゃん
事例:宿題をしないつよしくん
第3章 包括的なアプローチ
事例:動きの停止や儀式的な行動がみられる高山さん
事例:やけ食いがみられるかいくん
事例:性器いじりをするさだおくん
当ブログ殿堂入りの「家庭で無理なく楽しくできる生活・学習課題46」の著者である井上雅彦先生の推薦のついた、ABA療育本の新刊です。
最近、ABAに関してTwitterで議論をしていて、気づいたことがありました。
それは、ABAによる療育は「行動を増やす、減らす」というシンプルな視点で見ている限りではとてもすっきりしたものなのに、「発達を促す、知能を上げる」といった「一段上の」視点をもった途端に見通しが悪く混沌としたものになる、ということです。
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例えば、サーカスの動物がABAで多彩な芸を覚えたとして、それを「発達した、知能が上がった」と考える方はあまりいないと思います。単に「できることが増えた、行動レパートリーを学習した」だけ、ととらえる人が多数派でしょう。これを、「訓練で動物が発達した、知能も上げた」と声高に主張する人がいたら、まあ率直に言ってちょっと違和感を感じるんじゃないかと思います。
じゃあ、自閉症の子どもがABAで模倣ができるようになったり、いすに座って課題ができるようになったり、こちらの指示が通るようになったら?
・・・あえてこの問題にはこれ以上踏み込みませんが、ABAによる働きかけを発達とか知能向上� ��いう概念で説明しようとするのは、ちょっと難しい部分を含むかもしれない、ということはお分かりいただけるんじゃないかと思います。
私は、ABAというのはシンプルに「いまできることを増やす、望ましくない行動を減らす」技法として整理していくべきだろう、と考えています。
さて、本書の話題に戻りますが、本書のABA療育教科書としての「分かりやすさ、見通しのよさ」は、いま触れたような観点から生まれています。
つまり、ABAをシンプルな行動の修正技術ととらえ、子どもの「行動問題※」へのケーススタディを通じて学んでいきましょう、というスタイルに徹しているのです。
逆にいえば、ABAで課題をやらせて発達を促しましょう、知能を上げましょうみたいな話題は出てきません(あえて言うなら、発達については「できることを増やすことで、有効な学習の機会を増やしていきましょう」というアプローチだと言えます)。
※行動問題:一般には「問題行動」と呼ばれることが多いですが、本書ではより「子どもをとりまく環境を含む、行動上の問題」というニュアンスを強調するためにこう呼ばれています。
たとえば、第1章の最初のケーススタディでは、こんな例が登場します。
珍しいコイン磁気うつ病
かんちゃん(小3、自閉症)は、お母さんが隣のキッチンで夕食を作っていると、いっしょにリビングでテレビを見ている妹の髪の毛を引っ張って泣かせてしまいます。妹の泣き声が聞こえるたびに、お母さんはキッチンからリビングにかけつけ、かんちゃんに注意します。その場はそれで収まるのですが、キッチンに戻るとまた泣き声が聞こえてきます。
この「行動問題」について、当ブログでも何度も紹介している「ABC分析」、それから「頭のなかのアセスメント」、続いて「随伴性の検証」という形で、ABAの手法を使って原因究明と解決が図られます。
ここでユニークなのは、「頭のなかのアセスメント」です。このステップでは、「かんちゃん」がどんなことを考えているかを、思いつく限りたくさん想像して列挙していくのですが、「行動主義」と呼ばれるABAがこんな風に「感じていること・考えていること」を推理するプロセスを取り入れているのが斬新です。
この辺り、哲学的な興味もいろいろ沸いてきますね。とはいえ、途中のプロセスでこういった「頭の中」のことも考えていても、最終的にはすべて「観察できる行動」に落とし込まれていきますから、そういう意味での「行動主義」が本書で揺らいでいるわけではないです。
そして、次のステップである「随伴性の検証」では、「頭のなかのアセスメント」で思いついたアイデアを1つ1つABC分析に当てはめていき、どれが「正解」に近そうかを探っていきます。
ここも分かりやすいです。「頭のなかのアセスメント」をしらみつぶしに当てはめて随伴性をチェックして「当たり」を探す、というのは、目から鱗ですね。
↑先の「頭のなかのアセスメント」のアイデアを順にABC分析に当てはめ、強化的か(=正解かもしれない)そうでないかをチェックしています。
そして最終的に、かんちゃんの行動問題は「学校から戻ったあと、お母さんにずっとかまってもらえないかんちゃんが、お母さんの気を引きたくて起こしている行動である可能性が高い」という結論に達して、この章は終わります。
"全般性不安障害"研究の年齢の位置
続く第2章以降では、より複雑な要素のからみあう「行動問題」(随伴性が複数あるなど)のケーススタディを通じて、プロンプト、分化強化、環境操作、セルフマネジメントなど、ABAのさまざまなテクニックが紹介されていきます。
すべての働きかけがケーススタディに基づいて紹介されているうえ、各節の「理論編」「応用編」でABA理論がしっかり解説されているので、「具体的で分かりやすく、かつ体系的に整理されていてABAそのものへの理解も深まる」という、完成度の高い「ABA本」に仕上がっています。
巻末には、本書で使われている「ABC分析」や「頭のなかのアセスメント」を自らの問題に応用するための、ブランクの「テンプレート」も掲載されています。
この本では、「強化」とか「消去」といった概念はそれほど前面には出てきません。その代わり、「ABC分析」をはじめとする行動の随伴性から行動問題にアプローチしていくという側面が非常に強調されています。
本書を読んで、「ああ、ABAっていうのは強化・消去よりも、むしろ行動随伴性にこそ考えかたの基準点があるんだなあ(そこが「行動療法」とは違うのか)」という認識を改めて強くしました。
ちなみに、ABAのノウハウ本としてみると、この本はものすごく「欲張り」だと言えます。
わずか170ページあまり、イラストもたくさん入って字も大きく、16ものケーススタディが紹介されていることを考えれば、それぞれのケーススタディをざっと紹介して終わりでも全然おかしくないのに、先の「かんちゃん」のケーススタディが掲載されている第1章から、いきなり、「個人攻撃の罠」「反応トポグラフィー・反応クラス」「機能アセスメント・スキャッタープロット」「三項随伴性」「強化スケジュール」「課題分析」「オ� ��ラント行動・レスポンデント行動」「FCT(Functional Communication Training)」「PBS(Positive Behavior Support)」と、大学の教科書レベル同等以上のABA用語が目白押しで、その気になればこの本だけでABAの中級レベルの知識まで身についてしまう勢いです。
ただし、これらの専門的な用語や知識は、すべてコラムや「豆知識コーナー」という形で本文からは切り離して書かれていますので、最初に読むときはそれらを全部飛ばして、各節で最初に取り上げられているケーススタディを順に読んでいくことをおすすめします。(理論編、応用編も飛ばしていいと思います。)
そして、最後まで一度読み通して「ABAの全体像」をつかんだうえで、改めて最初から、今度は豆知識やコラム、理論編や応用編にも目を通しながら読むと、ABAの理論的な側面についての理解をさらに深めることができるんじゃないかと思います。
そんなわけで、本書はABAを必要とするすべての親御さん、支援者におすすめできる本です。
ABAを初めて学ぶという方は、コラムや豆知識、理論編・応用編を飛ばして読んでいけば、最後まで読むのに(分量的にも、難易度的にも)それほど骨を折ることなく、読み終わった頃には日々の療育のかなりの問題をABAで解決できるようになっていることでしょう。(それでも難しい、と感じた方はこちらを併読するのもいいと思います。)
今すぐ解決したい行動上の問題に悩まされている方は、本書のケーススタディから似通っている事例を見つけてそこを集中的に読めば、ヒントが得られるでしょう。
ABAについてある程度知識があって、さらに療育・支援という観点から理解を深めたい方は、コラムや豆知識、理論編・応用編まで含めて本書を読み通せば、本書が見た目以上に硬派で本格的なABAの教科書になっていることに驚くと同時に、理論と応用(臨床)が密接につながったABAの全体像に触れられるだろうと思います。
すでにABAのプロの域に達している方にとっても、本書は「ABAを他の人にどう教えるか」について示唆に富むものになっているのではないかと感じます。
久しぶりに、「ABAってこうだったのか! こう理解すればいいのか!」と膝を叩きたくなる快著です。当ブログ殿堂入りです!
※その他のブックレビューはこちら。
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